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Top 用語一覧 信代 信代 中島信代。唯たちの3年時のクラスメイト。 アニメにだけ登場したモブキャラの一人である。 演じるキャラは、その外見からか所謂ジャイアン的な描写が一般的である。 あっけらかんとした性格で、社交的に描かれている場合が多い。 残念ながらカップリング対象として見られる場合はほとんど無く、ネタキャラとして扱われることがほとんどである。 実家が酒屋という設定があるためキャラが飲酒などをするネタの時にも使われることがある
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『先生は日本一 私も日本一の酒屋になる ありが10!』 律「信代らしいな!」 信代「そうかい?」 唯「信代ちゃんらしい!信代ちゃん、卒業したら酒屋手伝うんだっけ?」 信代「ああ、そうだよ!私の夢でもあったからな!」 紬「がんばってね!」 澪「お、応援してる!」 信代「ありがとよ、成人したら酒買いに来いよな!」 慶子「のぶよー!バスケ部顔出しにいくよー!」 信代「おー!今行くー!んじゃみんなまたな!」 律「おう!また会おうぜ!」 唯「またねー!」 紬「またね~」 澪「また会おうな!」 信代「みんな最後のライブカッコ良かったぜ!じゃあな!」 信代「お待たせー」 慶子「はー・・・今日で最後なんだねー」 信代「そうだな、でもみんな仲良いし、また集まるだろ」 慶子「うん、そうだけどなんか寂しいよね」 信代「そうだな・・・毎日来てた学校だからな・・・」 慶子「うぅ・・・」 信代「なんだよ、まだ泣くんじゃないぞ!後輩達に挨拶するんだからさ」 慶子「うん・・・そうだね、ごめん」 バスケ部。 信代「バスケ部で過ごした3年間すごく楽しかった」 慶子「練習もキツイ時もあるし、試合に負けて悔しい時もあるけど、みんなが居たからやってこれました」 信代「私達のこの想いを次は君達が引き継いで行くんだ!頼んだぞ!」 「ぐす・・・先輩・・・」 「先輩やめないでー!」 「信代せんぱーい!慶子せんぱーい!」 信代「なんだよ・・・みんな・・・目から汗が出てきたぜ・・・」 慶子「うわーん」 廊下。 信代「はー、名残惜しい」 慶子「・・・いい部活だったね」 信代「うん・・・ほんとにな」 慶子「あ、私今日お母さん達迎えに来てるから」 信代「おう、わかったよ」 慶子「信代、3年間ありがとう」 信代「ありがとうな、また遊びに行こうぜ!」 慶子「絶対ね!」 信代(ふぅ・・・さて最後にさわちゃんに挨拶を・・・) 和「あら、信代じゃない」 信代「おー!和じゃないか」 和「もう帰り?」 信代「さわちゃんに挨拶して帰るとこだぜ」 和「そう、私もさわ子先生に挨拶して帰るから良かったら一緒にどう?」 信代「うん、一緒に行こう!」 職員室。 さわ子「二人とも、卒業してからも遊びにきてね!」 信代「うん、絶対くる」 和「はい」 さわ子「信代ちゃん、バスケ部の皆泣いてたわよ~この女泣かせ!」 信代「ひどいなさわちゃん!あたしも女だよ!」 和「くすくす」 信代「和も笑うなよ!」 さわ子「じゃあお元気で」 信代「さわちゃんもな!」 和「ありがとうございました」 下駄箱。 信代「和、この3年2組をまとめてくれてありがとうな」 和「何言ってるのよ信代らしくもない」 信代「良いじゃないか!こんな時くらい」 和「ふふっ」 信代「でも和が居なきゃ修学旅行、文化祭もまとまらなかったと思う」 和「私は何もしてないわよ」 信代「そんな事ないよ!」 和「ふふっ、褒めても何も出ないわよ」 信代「和」 和「なに?」 信代「私和にずっと憧れてたんだ」 和「えっ?」 信代「あの軽音部をまとめたり、生徒会長として学校もまとめてた」 和「そんな大げさな」 信代「いや、大げさじゃないよ。そんな奴がさ、こんな身近にいて・・・友達でいれて・・・」グスッ 和「ちょっと・・・やめてよ・・・」グスッ 信代「のどかぁ・・・まだ離れたくない!みんなと!」ダキッ 和「のぶ・・・よ・・・?」ギュッ 信代「うっうっう・・・」 和「私、信代にも憧れてたわ」 信代「どこに憧れるんだよ・・・」 和「ほら、校庭見てごらん」 信代「えっ・・・」 「せんぱーい!また練習しましょうねー!」 「信代先輩のダンクシュートかっこよかったですー!」 「せんぱいだいすきー!」 信代「みんな・・・」グスッ 「せんぱーい、お幸せにねー!」 信代「はっ?なんだそれ」 和「そりゃあ、私と抱き合ってるとこ見られてるんだからね」 信代「!!」 「先輩照れてるー!!」 「お邪魔しましたー!!」 信代「てめーら!!」 和「愛されてるわね」 信代「誰にだよ・・・」 和「クラスの皆、後輩達・・・」 信代「うん・・・」 和「そして・・・私にも」 信代「・・・和」 和「なーに赤くなってんのよ」 信代「誰のせいだよ・・・///」 和「いつまで抱き合ってるつもり?まだ足りないならいいけど」 信代「あ、ごめん!」 和「ふふっ」 信代「・・・でも、まだ足りないや」ギュッ 和「ええ、私も・・・」ギュッ おわり 戻る
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今日の1時限目は体育。 教師「じゃあ、今日は相撲やっから」 律「なにぃ…!」 信代「ふふふ」ニヤリ 信代の独壇場である。 律といちごが二人がかりで挑んだとしても、勝てるかどうか…。 教師「じゃあ、最初、若王子とそこの…」 指名されたのは信代といちご。 律「(そんな…いちごが…)」 土俵に上がった2人の圧倒的体格差。 このままでは生命の危機だ。 信代「手加減しねぇぞ…前からクールビューティさが気に入らなかったんだ」 いちご「……」プルプル まるで助けを求めるように律を見るいちご。 チワワのようにプルプルと震え、怯えている。 教師「じゃー始めっぞー」 律には、教師の笛が処刑の合図にしか聴こえてならなかった。 信代「ふんっ」 いちご「……!」サッ 正面から張り手をする信代。 それを上手くかわし、横に回り込む。 律「よし…!いっけぇ!」 いちご「(距離を詰め、一気に決める…!)」 懐に飛び込み、押し出し………のはずだった。 信代「かわしてくれるたぁ、中々だ」ニヤリ いちご「動かない……!」 いちごの渾身の体当たりだったが、信代は微動だにしない。 「暖簾に腕押し」という諺があるが、これは「信代に腕押し」であろうか。 いちご「えいっ…!えいっ…!」 信代「へへっ…効かないね」 いちご「そんな…」 信代「ふぬぅぅ!!」 両手でいちごの首を締め上げる。 いちご「あっ…んっ…」 信代「ヒャハハ…!いいぞいいぞ、その苦しそうなその表情!」 最早、試合は授業と呼べるものでは無くなっている。修羅と化した信代は、高笑いをしながらいちごに容赦ない攻撃を加える。 いちご「はっ…はぁ…はぁ…」 徐々に、いちごの呼吸が弱くなっていく。 酸欠状態に陥いり、顔色が悪くなっていく。 信代「(中々しぶといな…)」 いちご「あ…むー…!」プクー 信代「あん?」 いちごの口からフーセンガムが膨らむ。 体内に残された僅かな酸素を送り込み、大きさを増していく。 いちご「ぷ…むー…!」プクー 信代の顔を覆うようにガムは破裂した。 信代「ぐあっ…」 堪らずいちごを離す信代。 律「よし!今がチャンスだ!いっけーいちご!」 律「あ…!」 いちご「ゲホッ…ゲホッ…ハァ…ハァ…」 もはや、いちごは攻撃に移れる状態ではなかった。 死力を尽くし、ガムを膨らませたのだろう。 信代「くっ…小癪な真似を…!」 顔からガムを剥がし終えると、鬼のような形相でいちごを見据える。 信代「よく耐えたほうだが…さよならだ、クールビューティ…」 いちご「ハァ…ハァ…デブ…」ボソッ 信代「!」カチン 信代「死ねぇぇええ!!」ドドドドド 律「やっ…やめろー…!!」 律の制止も虚しく、信代の突進がいちごを直撃した。 いちご「きゃっ……!!」 いちごの断末魔が響き渡る…。鈍い音と共に、土俵の外に弾き出された。 律「い…いちごー…!」 咄嗟に駆け寄る律。 いちご「はっ…りっちゃ…」 律「馬鹿!なんでギブアップしなかったんだよ!」 律はいちごに問い詰める。 信代に締め上げられた時点で勝敗はほぼ決まっていたはずだった。 いちご「だって…負けたくなかった…だもん」 律「へ…?」 いちご「相手がどんなに強くても…どんなに不利な状況だろうと…」 律「けっ…けどさ…あのまま続けたら…」 いちご「うん…。けど、ギブアップせずとも結局負けちゃったね…」 目から涙がこぼれる。 律はいちごの性格を把握した。昨日の太鼓の○人の腕前も…、この負けず嫌いな性格があそこまで上達できたのだろう。 いちご「うぇ…りっちゃ…悔しいよ…」ポロポロ 律「大丈夫だから」 いちご「え…?」 律「お前の敵はとってやるからさ」 いちご「だめ…りっちゃが死んじゃう」 律「いちごがここまでやられて、黙ってるわけにはいかないよ」 律「運動神経には自信あるんだぞー?」 いちご「けど…」 律「そんな顔するなって」 心配するいちごの頭をポンと叩く。 相手が強敵であるほど燃え、負けず嫌いな性格はお互い様のようだ。 いちご「じゃあ…約束…」 小指を差し出すいちご。 いちご「絶対に勝ってね…」ユビキリゲンマン 律「ふふっ、任せとけって」ウソツイタラハリセンボンノーマス 指切りを終え、いよいよ戦場に向かう律。 律「じゃな」 いちご「うん…」 不安で堪らない。 しかし、これ以上止めたところで律は引き下がらないだろう。 いちごはただ愛する人の背中を見送るしかなかった。 律「(手が震えてる…)」 この震えは武者震いか、あるいは恐怖からなのか…。両方であるとしても、先程の惨劇を目の当たりにした手前、恐怖の感情の方が強い。 信代「次は貴様が相手か」 律「ああ、よくもいちごを可愛がってくれたな」 信代「雑魚すぎてつまらなかったがなぁ」ニヤニヤ 律「…!」 いちごを馬鹿にされて、歯ぎしりをする律。 しかし、怒りを抑え冷静に 律「(落ち着け…勝負は熱くなったら負けだ…)」スゥーハァー 信代「ぐはは、お前は少しは楽しませてくれよな」 律「そういや…最近…」 信代「なにぃ?」 律「また体格よくなったなぁ、信代」 信代「お前…!生きて帰れると思うな…」 律「(これでいい、信代は熱くなってる)」 絶対的不利を少しでも緩和するため、まずは心理戦に出た律。 いちご「(りっちゃ…)」ハラハラ いちご「…!…雨」 試合が始まろうとした時、雨が降り始める。 果たしてこの天候が吉と出るか凶とでるか。 教師「じゃあ、始めっぞ」 今まで空気だった教師が試合開始を宣言した。 信代「うらぁ!」 律「くっ…!」 先制の張り手。 すかさずガードする律。 律「(なんて重い一撃だ…)」 信代「雨中決戦か…それも悪くねぇ」 律「(パワーじゃ負ける、なら…)」 信代「もういっちょいくぞぉ!」 信代の腕は空を切る。 懐に入り込み、ボディブローを叩き込む。 律「とぇぇぇい!」 信代「ぐっ…」 いちご「(上手い…!あれ…?)」 綺麗に決まったはずだった、しかし、苦悶の表情を浮かべるのは律のほうだ。 律「っっ……!」 信代「ちょっと効いたぜ…へへ」 律「(こいつ…ただの[ピザ]じゃねぇ…!)」 律が拳を入れたのは、脂肪の塊…否。 確かに固い筋肉の手応え。 並々ならぬ鍛練を積み、作りあげた脂肪にコーティングされた筋肉の鎧。 信代「前々から貴様のクラスの元気印ですっつう態度が気に入らなかったんだ」 律「(やられる…!)」 懐に入り込んだ律を目掛け、信代の手刀が炸裂する。 律「ぐぁっ…!」 信代「壊しちまったかー悪い悪い」ニヤニヤ 律のトレードマークであるカチューシャはいとも簡単に割れた。 割れた破片が刺さり、額から流れる血。 信代「うぅーん…いいねぇ、血を見ると興奮するぜぇ…」ゾクゾク 律「ううっ…」 信代「まー大丈夫だ、雨が流してくれるからよぉ」 律「余裕だな…ええ?」 信代「倒れない度胸は褒めて…」 律「うあぁあああ!!!」 信代「!」 再び懐に飛び込み、拳を繰り出す。 もうやけくそだ。このままでは負けるのはわかってる。 ならば今、体に残された全ての力をこのラッシュにかける。 律「(頼む…効いてくれ…!)」 祈るようにただただ拳を浴びせ続ける。信代も流石にこの猛襲には後退し、土俵際までジリジリと追い込まれる。 信代「ぐっ…!いい加減に…」 律「(もう少し…もう少し…!)」 信代「しろぉ!」 律「うぁっ…!」 信代のカウンター気味に律の顔面にヒットする。 よろめく律は胸倉を掴まれ、追い討ちをかけるように膝蹴りがお腹に入る。 律「ぐはっ…ゲホッ…ゲホッ…」 信代「ハァ…ハァ…見事な攻撃だった、危なかったぜ」 信代「だがよぉ…決して私の肉体は打ち破れない!」 律「ぐっ…!」 いちごがされたように首を締め上げられる。 信代「ここまで追い込んだご褒美だ…!ジワジワといたぶってくれる!」グググ 律「はっ…あ…」 いちご「りっちゃ…!」 あと少し…あとわずか数十センチで勝利を掴めたのに、形勢は逆転してしまった…。 額からの出血と、首を絞められ、段々と意識が薄れていく。 律「(皆…まだ学祭のライブあったのにな…)」 薄れゆく意識の中、律は思う。 律「(思えば…迷惑ばかりかけてたなぁ…部長なのにさ…ごめんな…)」 律「(いちご…また泣きそうな顔してやがる…)」 律「(敵討なんて…言ってさ…このざまだ…)」 律「(これから…沢山遊ぶはずだったのに…)」 律「(夏だから…海とかお祭り行ったりさ…また太鼓の達人もやりたいな…)」 律「(ここでお別れなんて…嫌だ…!!)」 信代の腕を掴み、ぐっと力を入れる。 とうに力を使い果たした、なのに、この力はどこから湧いてくるのか。 信代「なっ…!」 律「へ…へへ…」ニヤリ 信代「(この状況で…笑ってやがる…)」ゾクッ 雨に濡れ、額から血を流した律の笑み。 それを見た信代は、背筋が凍る気がした。 信代「随分と嬉しそうだが…頭狂っちまったか?」 律「違うね…夏休みの予定さ…考えてたんだ…」 信代「あん?」 律「この試合に勝った後な…」 信代「お前、今の状況を把握してるか?」 律「ゲホッ…いちごを泣かした責任は…取ってもらうぞ」 信代「ふん、授業も終わりが近い…楽になれよ」 信代は律を掴んだまま、土俵際に静かに歩いていく。 いちご「(りっちゃ…よく頑張ったね、もういいから…これ以上苦しまないで…)」 ボロボロに変わり果てた律を見て、いちごは心の中で労いの言葉をかける。 律「まだ…」 信代「ジ・エンドだ」 信代が土俵の外に律を放り込もうとした次の瞬間… ピカッ! 信代「ひぃっ!」 雷鳴が鳴り響き、その音に驚き信代は絞めてた手を離してしまった。 律「神様って…いるもんだな…へへ」 12
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すかさず蹴りあげる。 ヒットしたのは信代の顎。 信代「がっ…しまっ…」 律「顎は急所だもん…」 信代がぐらつく。 強靭な肉体を持つ信代には体を狙っても倒せない、そこで律が狙ったのは、急所である顎。 律「窮鼠猫を噛むとはこのことだな」 信代「てめぇ…!」 再び掴みにかかる信代だが、その手には力なく、かわされる。 律「MAXゲージ消費だ」 律「スクリュー…アッパー!!!」 信代「ぬぐあぁぁ!!」 律の全身全霊の拳が信代に炸裂した。 難攻不落の巨城はここに墜ちた。 律の勝利を合図するようにチャイムが鳴る。 信代「負けた…この俺が…」 天を仰ぎ信代は呟く。 まさかあの状況から、敗北するなど微塵も思わなかった。 律「あぁ…そうそう、後でカチューシャのお金請求すっから」 信代「おk」グッ 教師「ほいほい、じゃあ田井中の勝ちってことで」 死闘は終わった。 先程の雷雨が嘘のように晴れ渡る、 まるで律を祝福するように… 律「(本当に…死ぬかと思った…)」 律「あ…れ?」ガクッ 性も根も尽き果てたのか、力無く膝から倒れこもうとした時、後ろからいちごが支えてくれた。 いちご「はいっ…」ヒシッ 律「いちご…サンキューな」 いちご「すごい血だよ…?保健室で止血しなきゃ」 律「だな…、フラフラする」 いちご「肩貸す」 律「頼むわ」 勝利したとはいえ、体へのダメージは相当大きかった。ひょこひょこと歩く。 いちご「濡れちゃったから着替えも持ってくるね」 律「あぁ…へっくち」 いちご「(可愛いくしゃみ…)」 2人は保健室に肩を組みながら向かった。 一方、信代は… 信代「不覚…!」ギリッ 放心状態のまま土俵の上で仰向けに横たわる。 余裕で勝てるはずだった。相手は格闘技を経験してもいない、まったくの素人。 信代「ふははは…!」 教師「…どうした?」 信代「あまりにも自分が不甲斐なくてさ…」 教師「……」 教師は信代の悔しさが痛いほどにわかった。 信代「まぁいいさ…自分の弱点がわかった、詰めが甘いっつうな」 教師「それがわかったなら、お前はまだまだ強くなれるな」 信代「ありがとう、先生」 信代「(田井中律…その名前覚えておくぞ…!)」 自分に負けをつけた強敵の名を改めて心に刻む。 彼女はさらに精進し、強さを増すに違いないだろう。 ~保健室~ いちご「誰もいないみたい…」 律「そっか…いちち」 いちご「りっちゃはベッドで座ってて、救急箱取ってくる」 律「悪いな」 戦闘の興奮状態で気付かなかったが、体のあちこちが痛む。 ヨロヨロとベッドに倒れこむ。 いちご「お待たせ」 律「あぁ…いちごも座れよ、疲れたし、痛むだろ?」 いちご「私は平気、じゃあ…消毒するから」 いちご「おいで」ポンポン 律「(ひっ…膝枕だとぉ…!)」 いちご「ほら…優しくしてあげるから」 律「(それは誤解を招く発言…!)」 律「じゃあ…よっと」ドキドキ どきまぎしながら頭をいちごの膝に上に乗せる。 程よい柔らかさに、ほのかに香る石鹸の臭い。こんな枕があったなんて…。 律「(ふわふわだぁ…)」 いちご「前髪長いね…」 律「あぁ、そういやカチューシャしてなかったんだ」 いちご「結んだげる」 そういうと、いちごは自分の髪のゴムを解き。律の前髪を束ねて結んだ。 これでパイナップルりっちゃの完成だ。 いちご「ちょっぴりしみます…」チョンチョン 消毒液の染みた脱脂綿が額の傷口にあたる。痛みを紛らわすために律は他のこと考えた。 律「(いちごの太股…いちごの太股…)」 いちご「包帯を巻いたら…完成です」 律「ふぃー、なんかハチマキみたいだなぁ」 いちご「じゃ…脱いで」 律「なっ…!?」 積極的ないちごにたじろぐ。膝枕もこの展開への布石だったのか… 律「(どうしよ…どうしよ…けど、いちごならいいかなー…って何を考えている…!)」 いちご「早く」グイグイ 律「はっ…はい…!」 律は脱ぎ始める。 再びあらわになる律の体。相変わらず、控え目な二つの果実が撓わに実っている。 いちご「はい」 律「は…?」 いちご「着替え、私のだけど同じくらいのサイズだから…」 律「そっか…ははは…」 どうやら思い過ごしだったようだ。 恥ずかしいけど、ちょっとがっかりした自分を許してもらいたい。 律「おっ、ぴったし」 いちご「でしょ?」 律「さぁて…この後の授業はサボるかなー、下校まで寝れそうだし」 いちご「じゃあ…」 律「ぬ?」 いちご「私も一緒に…添い寝したげる」 律「(なんだか…胸がトキメキメモリアル)」 いちご「嫌…?」 律「…なわけないだろ、カモンカモン」 いちご「(やったぁ)」 着替えはしたものの、雨に濡れたので、体を冷やさぬように布団をかぶる。 いちご「ねぇ…りっちゃ…」 律「なんだ?」 いちご「最後に決めた、スクリューアッパーって…何?」 律「あー、あれ?あれは格闘ゲームでキャラが使う技だよ」 いちご「ふふっ…そうなんだ」 律「いや、かっこよく決めたいじゃん?」 いちご「うん、かっこよかったよ…」 むぎゅぎゅ… 手を繋いできたいちご。不思議ともう緊張はしなくなった。 こういことがいとも当たり前な行為のように いちご「今度、お出かけしよう」 律「いいね、行こうか」 いちご「カチューシャ壊れちゃったから…新しいの買わなきゃね」 律「あとさぁ、この前のゲーセンも行こうぜ」 いちご「うん、格ゲーもやってみたい…」 律「よっしゃ、もちろん太鼓の○人もな」 いちご「うん…」 この2日でかなり親密な関係になれた。 今度の休日の予定を話し合う。 律「ふぁ…」 いちご「おねむ?」 律「うにゃ…まだ平気」 いちご「いいよ、無理しないで」 律「そっかぁ、じゃあ…」 激闘の疲れか、ものの5分もしない内に寝息をたてる律。 律「……」スースー いちご「(おやすみ…)」ナデナデ 律の心地好さそうな寝顔を見て、いちごは微笑む。本当に無事でよかったと。 額に巻かれた包帯。 痣や傷だらけの顔や体。 それを見て、自分の敵討ちの為にこんな大怪我をしてまで約束を守ってくれた律に感謝していた。 いちご「(りっちゃ…頑張ったご褒美…)」チュ そっと口づけする。 その、プルプル唇で 律「……」スースー いちご「(起きてたら恥ずかしいから…///)」 いちご「私も…おやすみ」 熟睡していた律は、いちごの唇が触れたのには気付かなかった。 夢の中で見た夢はシチュエーションは違えど、正夢だったのだろうか。 二人はお互いの温もりを感じながら深い眠りについた。 ~~~ 聡「おーい、姉ちゃん」 律「うぅーん…いちごぇ…」 聡「…?起きろってば」 律「あ…」ハッ 聡「朝だぞ」 律「(全部、夢だったのか…いいとこだったのに…)」 またしても我が弟に邪魔されてしまった様だ。 律「おい、聡待って」 聡「ん?どうし…」 律「スクリューアッパー!!」 聡「ぐわぁぁあ!!」 律「これで済ましてやろう」スッキリ 聡「な…なんで…」 律「愚弟よ…空気を読めってことさ」 聡「意味わからん…ぐふっ」ガクッ 気を失う弟をよそに、清々しい笑顔の姉。 律「いってきまーす」 律母「はい、気をつけてね。今日は早いのね」 律「~♪」 通学路を歩きながら、あの子を探してみる。 いつもより早く出たのも、あの子に会いたいから 律「あっ、おーい」 いちご「あ…田井中さん…」 いちごは少し驚いた様子。 いつもは遅めに来る律とは通学時会うことはないからだ。 律「いちご、あのさぁ…」 いちご「?」 律「今度、ゲーセン行かないか?」 いちご「え…別にいいけど…」 律「じゃあさ、今度の休日でいい?」 いちご「うん…」 いちごは、律が急にフレンドリーに接してくるのがわからなかった。 律「(現実ではもっと一緒に遊んで仲良くなれますように…)」 「りっちゃ」と呼んでくれないいちごに少し寂しい気もした。 夢の世界のように仲良くなれるのか不安であった律だが、その後、2人の仲はとても親密になったそうだ。 律編終了! 13 ※澪編
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潮「はぁー授業疲れるなぁ~…」 慶子「ホント、私もう眠くて眠くて…」 信代「朝練があると疲れるよなぁ」 談笑に花を咲かせながら、生徒三人がトイレへと入る。と、 「ううぅ…く、う…はぁ、はぁ…」 慶子「!?」 潮「な、何…何今の?」 信代「ん?どうかした?」 二人の反応に、思わず声をひそめて訊ねる信代。 口に指を当てる二人の様子を見て、彼女も口をつぐんだ。 「はぁっはぁ…ぐ、うぅ…」 慶子・潮・信代「――~~…!!!」ゾゾゾッ トイレの奥から聞こえてくる苦しげな呻き声に、三人は声を失って抱き合った。 信代「な、何だろ…?」 潮「ちょ、やめなって」ヒソヒソ おどおどしながらも興味本位で声が聞こえてきた方へと近付く信代。ただただ震えたままその場に立ち尽くす潮と慶子。その時。 バキャッ!! 乾いた破壊音が鳴り響き、三人は飛び上がりそうになるほど驚いた。 潮・慶子「ひぎゃああああああああっ!!」 信代「うほおおおおおおおおぉおお!!」 甲高い悲鳴を上げながら、三人はものすごい勢いでトイレから逃げ出した。 律「ふぅ…なんとか収まってくれたけど…手すり壊しちゃったな」 ぼやきながら律は個室から出る。 知らぬ間に力を入れすぎていたのだろう。きつく握りしめていた手すりは、片方の端が壁から外れてしまっていた。 律「しゃーない…職員室に報告だけしとくか」 事情を聞かれたら困るので、ちょっと体重かけたら壊れたということにしておこう。 そう思いながら、律は職員室へと向かった。 慶子「の、呪いよ…トイレの花子よ…!!」 潮「違うよ!あれはきっとトイレで溺れて死んでしまった地縛霊なんだよ!!」 信代「なにそれ…。違う違う。きっと誰か便秘だったんだって」 トイレから離れた廊下で、三人はさきほどトイレで聞いた呻き声の正体について議論を続けていた。 信代「呪いだの地縛霊だの…そんなのあるわけないよ」 潮「一番凄い悲鳴上げてたくせに」 信代「なっ!いいさ!!じゃあもう一回行こうじゃないか!」 慶子「え、えぇ~…」 信代「あ、もしかして怖いわけ?」 慶子「こ、怖くなんか無いよ!いいじゃん!行こう!!」 潮「え~…ちょ、ちょっと待ってよ~…」 潮「ホントに戻ってきたし…」 慶子「ほら、入って」 信代「え、あ、あたしから…?」 慶子「当たり前じゃない!ほら!」 信代「わかったよ…」 改めて静かにトイレに入る三人。しばらく黙っていたが、呻き声は聞こえない。 慶子「み、見に行ってみて。一番奥」 信代「ちょ、行くならみんなで行こうよ」 おそるおそる、一番奥の個室をのぞき込む三人。中には誰もいなかった。が、 潮「ひ、ひいいいい!!」 へし折れた手すりを見て、潮は震え上がった。 慶子「きゃああああ!やっぱりそうじゃない!地縛霊が苦しさのあまり暴れたんだって!!」 信代「ち、ちちちちち違うって!そう!きっと誰かがふんばった勢いでぶっ壊しちゃったんだ!きっとそう!」 恐怖のあまり訳のわからぬ事を叫ぶ三人。そこへ。 がたん さわ子「あなたたち――」 三人「qあwせdrftgyふじこlp!!!!!11!1!!!」 突然声をかけられ、三人は狂ったように悲鳴を上げつつ、トイレから逃げ出した。 さわ子「…?」 律に頼まれて手すりの確認に来たさわ子は、彼女たちの様子に眉をひそめて、ただ呆然としていた。 放課後。 律「ふぇー…一時はどうなるかと思ったぜ…」 一人ぼやきながら音楽室へと向かう律。あの数学の授業以降は、普通に過ごすことが出来た。 頬を叩いて気合いを入れ直した後、律は準備室のドアを開けた。 律「おいーす」 澪「遅いぞ部長さん」 梓「一番最後ですよ…」 律「あは、悪い悪い。ちょっとさわちゃんと話しててさ」 HRが終わった後、廊下を歩いていると急に呼び止められたのだ。 その真剣な面持ちに、律は内心焦った。もしかして、ばれたのか、と。が、彼女の口から飛び出した言葉はあまりにも拍子抜けな物だった。 さわ子『りっちゃん…あなた、ダイエットしなさいね?』 律(…体重かけたら壊れたなんて言い訳、するんじゃなかったな…) 手すりの壊れ具合を見て、さわ子は愕然としたのだろう。 律(普通は疑うだろうけど…アホの子さわちゃんに感謝だな) 紬「そうそう、今日はチーズケーキ1ホール持ってきたの」 唯「わーい!チーズケーキ!チーズケーキ!」 はしゃぐ唯を尻目に、律はいつもの席に着く。 律(ん、待てよ…。チーズケーキ…1ホール…!?) 机の上に、まん丸に焼かれたチーズケーキが置かれた。 律(げっ…!) 皆に悟られないように、律は何気ないそぶりでケーキから目を背ける。 律「…ムギー、紅茶砂糖少なめでよろしくー」 紬「わかったわ」 律(うぅ…ムギ、早く切り分けてくれ…) 紬「さて、あら…ナイフはどこかしら?」 ゆったりとした動作で、紬は切り分けるためのナイフを探す。 なかなか見つからないのか、もたもたしている。 梓「もー…練習しましょうよぉ」 待ちきれないといった面持ちの唯を見て、梓が不満げに呟きを漏らす。 唯「あずにゃんったらぁ。ケーキ食べたいくせにぃ」 梓「そ、それは…そうですけど…」 そうか、練習を先にやれば良いんだ。そのうちにむぎが切ってくれるだろう。 律は鞄からスティックを取り出しながら、ドラムに目をやる。が、 律(う、うおっ!!) 円形の集合体――それがドラムだった。慌てて目をそらす律。 梓「…?どうしたんですか、律先輩。珍しいですね、お茶より先に練習するつもりですか?」 律が机の上に置いたスティックを見て、梓が少し驚いたように訊ねる。 律は引きつった笑みを浮かべて、そんな彼女を見た。 律「はは…言ってくれるねぇ。私が練習熱心だと、そんなにおかしいかい?」 梓「あ、いや、そういう訳じゃなくて――そ、そうだ!ムギ先輩がケーキ切り分けて下さるまで、ちょっと合わせてみませんか!?私、新曲あやふやなところがあって」 上手くごまかした梓の提案に、律は喜ぶべきか悲しむべきかわからなかった。 とにかく、ここで返答に詰まっては怪しまれる。 律「んー、別にいいぞ!じゃ、やるか!」 澪「ほぉ…珍しく律が部長らしく見えるな」 律「お前ら、ホント失礼だな…。私だって見えないとこで頑張ってるんだぞ…」 律(梓の演奏に集中しよう…。ドラムからは出来るだけ視線を外すんだ…) 梓「――あっ…また間違えちゃった…。このパート難しいんですよね…」 律「んじゃ、ここ繰り返しやってみるか」 できるだけ平然を装って、律はスティックを握りなおす。 驚くほど手汗が出ていて、ドラムを叩いている内に滑って飛んでいきそうだった。 唯は頬杖をついて机の上のチーズケーキを眺めていたが、待ちきれなくなって、紬を振り返って急かした。 唯「ムギちゃ~ん…まだナイフ見つからないの?――ムギちゃん?」 ナイフを探していた紬は、いつの間にか手を止めて、練習に努める律と梓を見つめていた。 声をかけられて、びくんと肩を振るわせると、紬は慌てて棚を漁る。 紬「ご、ごめんなさい、ぼーっとしてたわ…。えーっと、確かこのへんに…あった!ごめんね、唯ちゃん。待たせちゃって」 唯「ううん。私もごめんね。何だか急かしちゃってさ」 ようやく見つけたナイフで、紬はチーズケーキを丁寧に切り分けていく。 澪「二人共、ケーキ切れたぞ」 律「あいよ~。じゃあ、あと一回だけやってお茶にしようぜ」 梓「はい!」 律の練習熱心な姿が嬉しいのか、梓が満面の笑みで頷く。 律(私って、そんなに練習サボってるように思われてるのか…?) 落胆しながらスティックを構える律。 自分でも知らないうちに結構ショックを受けていたようで、すっかり気をつけなければいけないことを忘れていた。 律「あ」 思いっきりドラムの円形が目に入る。律は慌てて全身に力を込めた。 律(ちくしょう!忘れてた!!) わき上がるものとの葛藤が始まる。 梓「…律先輩?始めないんですか?」 カウントを取るためにスティックを構えたままの姿勢で固まる律を見て、梓が不思議そうに首をかしげる。 律「あ、あぁ…いくぞ」 怪しまれないためにも、律はそのまま無理矢理演奏に入った。 体を走るざわめきを押さえ込みながらの演奏は、いつもより力が入ってしまい、つい走りがちになってしまう。 澪「おい律。また走ってるぞ。肩の力抜いた方がいいんじゃないか?」 律(無理です澪さん…) 紅茶をすする澪の助言に応えることも出来ない。 ざわめきが、体を徐々に支配してくる。まずい。押さえきれない。 律「…っ…」 バキッ!! 力を込めすぎたのだろう。スティックが、握ったところで真っ二つにへし折れた。 梓「わっ!だ、大丈夫ですか?律先輩!」 乾いた音に驚き、梓が演奏を中断して振り返る。 額が冷や汗だらだらなのを悟られぬよう、袖でおでこを拭いながら律は笑った。 律「あちゃ~…寿命がきてたのかな…。これじゃ練習になんないよ…。ごめんな、梓」 立ち上がって、律は鞄を引っ掴み、皆を振り返った。 律「みんなもごめん!新しいスティック買いに行くから、私先帰るわ!じゃな!」 急いで部室を飛び出す律。皆はその背中を、何も言い返せずに見送った。 唯「あ…チーズケーキ食べていけばよかったのに」 紬「しょうがないわ。りっちゃんの分は、唯ちゃんが食べてあげて」 唯「うわーい!りっちゃん隊員…あなたの遺した物、決して無駄にはしませんぞ!」 澪「何言ってるんだ…」 部室を出た瞬間、腕と足に体毛が現れた。 律「うお…危なかったぁ…」 とりあえず、最悪の状況は避けることが出来た。後は、誰にも見つからないように変身を解かなければ。 他の生徒も部活中で、廊下に人気はない。 律(またトイレにでもこもるか) 律は階段を一気に飛び降りると、素早くトイレに駆け込んだ。 律「おぉ…すげぇ…」 身体能力の変化に、自分でもビックリする。 律「さて、と…」 例のごとく、律は一番奥の個室に入り、念じることに努めた。 その後、変身を解いた律は、早めに学校を出て、いつもの楽器屋で新しいスティックを購入し、帰宅した。 聡「あ、おかえり、姉ちゃ――」 庭でサッカーボールをリフティングしていた聡が出迎える。 律「あああああぁいっ!!」 聡「ちょおおお!」 彼が目に入った瞬間、律は地を蹴って駆け、思い切りサッカーボールを蹴っ飛ばした。 車庫の隅に固めてあった、積まれた本やダンボールの中にそれはつっ込み、埃を舞い上げて隠れてしまった。 律「…ふぅ…」 聡「…もうすっかり円形恐怖症だね…」 成し遂げた笑みを浮かべて汗を拭う姉を見て、聡はため息をついた。 律「今日は大変だったぜ…。ちょっと丸っぽいもの見ただけで、すぐ体が反応しちゃうんだもん」 リビングでぐったりと横になる律。その隣でアイスをくわえながら、聡は話を聞いていた。 聡「へぇ…。ま、まさか授業中に変身したりしてないよね?」 律「何回かやばいのがあってさ」 体を起こして、律は参ったように頭を掻く。 律「数学の時間に円の問題あてられるし、部活では目の前に丸いケーキ置かれるし、ドラムは円の集合体だし…」 聡「うわぁ…。大丈夫だったの?」 律「ぎりぎりで。しっかしどうすっかな…。こうも簡単に体が反応しちゃ、そのうちボロが出そうだぜ」 聡「じゃあさ!昨日みたいに特訓しようよ、毎日!今度は押さえ込む練習だけじゃなくて、簡単に変身しないようにさ!」 律「聡…お前なんか楽しそうだな」 聡「えへへ…そりゃだって…面白いじゃん」 律「こいつぅ…人の苦労も知らないで…この!」 律は聡の首に腕を回すと、チョークスリーパーをかける。 聡「わー!ごめんなさい!!ギブギブ!」 律「…ま、やらないよりはマシだろうしな…。よし!お母さん達が帰ってくるまで、ちょっと付き合ってよ」 律「ぐるるるるるぅ~…」 聡「――何で風船見ただけで変身しちゃうのさ…」 頭を抱えて呻る狼化した律を見て、聡が呆れたようにぼやく。 律「あのな、私だってなりたくてなってるんじゃないんだぞ。何で変身しちゃうかって?そこに丸い物があるからさ」 聡「なにかっこつけてるの…」 自分がふくらませた風船ををまじまじと眺めながら、聡は頭を掻く。 聡「丸だと思うから駄目なんじゃないかな。ほら、これは…えーっと…そう!いびつな形をしたよくわからない物だよ!」 律「えー…そんな簡単に済むものなのかな…」 聡「だってさ、実際変身しちゃった後も、戻りたいって思えば気合いですぐに戻れるんだろ?ようは気の持ち様だって!」 律「んーまぁ確かにそうだけど…」 聡「せめて、綺麗な円形をしてない物は見ても大丈夫になりたいよね」 風船を放り捨て、後ろを振り返る聡。 彼の背後には、様々な円形の物体が並んでいた。 律「……」 律はふわふわと宙を舞う風船を目掛けて腕を振るう。爪が薄いゴム膜をすっぱりと裂き、破裂音が響いた。 聡「うわっ!!?ちょ、ビックリさせないでよ!」 律「ん、悪い悪い」 律(力のセーブの仕方も、ちゃんと特訓しといた方がよさそうだな…) 恐ろしく鋭い爪と、扉に空いた穴を交互に見つめ、律は小さくため息を吐いた。 翌日、律はたびたび危ない場面に出くわしたが、先日とは違い余裕を持って乗り越えることができるようになっていた。 先生1「んじゃ田井中。昨日あたってたとこ、やってくれるか」 律「は~い」 律(わざといびつな形に描いてっと…) 律「できました」 先生1「おぉう…まぁあってるっちゃあってるが…汚い円だな」 律「答えが合ってればそれで良いんですよ!」 紬「りっちゃん、昨日ケーキ食べさせてあげられなくてごめんね。お詫びにマカロン持ってきたの」 律「ん?あ、あぁ、そんな気使わなくてもよかったのに!私が勝手に帰っちゃったんだし」 律(ピントをずらせば、なんとかいけるな…) 紬「でも、私がちゃんとナイフ用意してなかったせいだし…もらってくれる?」 律「…それじゃ、お言葉に甘えていただこうかな。でも、ホントそんなの気にしなくていいからさ」ヒョイパク 律「お!うめぇ!!ありがとな、ムギ!」 紬「……」 律「…どした、ムギ?私の顔、何か付いてるか?」 紬「え、あ、ううん。ごめんなさい、ぼーっとしてたわ」 部活中もボロを出すことなく、いたって普通に過ごすことが出来た。 帰宅後は両親が帰ってくるまで聡と共に特訓に努める。 そんな毎晩の特訓のおかげもあってか、ようやく律はこの体での生活に慣れ始めていた。 焦点を外すことで、少しぐらいなら丸い物を見ても大丈夫。 たとえはっきり見てしまっても、一瞬なら変身を押さえ込むことも出来る。 律(でも、結局何でこんな体になっちゃったのかはわからずじまいなんだよなぁ) 原因がわからない限り、普通の体に戻ることは無理だろう。 律(ま、この調子だとこの体でも今まで通りにできそうだけど…) そんなこんなで、誰にもばれずにいつも通りの生活を送り始めていた、ある日のことだった。 3
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玄関の靴箱まであと数歩という距離にまで近付いた時、急に後ろから声を掛けられた。 聞き覚えのある声だった。 って、私と唯を知ってる人なんだから、その声に聞き覚えがあるのも当然なんだけど。 自分で自分に突っ込みながら振り返ってみると、そこに立っていたのは信代だった。 「あ、信代ちゃんだ! おひさー!」 久しぶりの同級生との再会が嬉しかったのか、唯が信代に駆け寄っていく。 唯が軽く手を上げると、信代も手を上げてお互いに軽く叩き合う。 当然、私も信代と久々に会えて嬉しかったんだけど、 それよりも信代が学校に居る事の方が意外で唯に一歩出遅れる形になってしまった。 それも仕方がないと言えば仕方ないと思う。 『終末宣言』の直後、誰よりも先に学校に来なくなったのは、この信代だった。 見る限りでは学校が嫌いなわけでもなさそうだったし、 友達を大切にする面倒見のいいタイプの信代が真っ先に学校に来なくなったのは、私としても気になるところだった。 もしかしたら、何かの暴動に巻き込まれて……、なんて嫌な想像もしていたくらいだったし。 携帯電話で連絡を取ろうかとも思ったんだけど、 もし繋がらなかったら、って思うと、情けないけどその一歩を踏み出せずにいた。 でも、とりあえずは元気そうな信代を見て、私は心の底から安心した。 親友と呼べるほど親しいわけじゃないけど、それでも同じクラスで友達なんだ。 無事でいてくれて、本当に嬉しかった。 唯と違い、その場で黙ったままの私の様子を不思議に思ったのか、信代が首を傾げながら言った。 「どうしたの、律? ひょっとして私と会えなくて寂しかったとか?」 心情を見透かされた気がして、私は目を逸らしながら、違うやい、と返してやった。 くそー、信代のくせに生意気な……。 悔しいからこのまま信代と唯を置いてムギを迎えに行こうかとちょっとだけ思ったけど、 やっぱり信代が今まで何をしていたのか気になって、私はその場から立ち去る事が出来なかった。 悔しがっている事が分からないよう声のトーンを少し変えて、結局、私は信代に訊ねてみる事にした。 「そんな事より本当にどうしたんだよ、信代。 急に学校に来なくなったと思ったら、いきなりそんな私服で学校に登校してきて。 色気づいて指輪なんかもしちゃってさ。校則違反だぞ、校則違反ー!」 学校外で会う事が少ないから、私は信代の私服姿をそんなに見た事がないからはっきりとは言えない。 だけど、今日の信代の私服姿は、妙に色っぽいというか艶っぽいというか、とにかく色気があった。 服自体はしまむらで見かけるような普通の服装なのに、どうにも輝いてる感じがする。 普段は私と同じく、可愛いのとか興味ない感じだったのにさ。 何だよー。さわちゃんにキラキラ輝く方法でも教えてもらってたのか? ひょっとしたら、この見慣れない信代の指輪の魔力とかだったりして。 この指輪をはめただけで志望校に合格、宝くじにも当たり、身長も伸びてお肌もツヤッツヤー! ホントもう次々と幸運が舞い込んで来て、今ではあの頃の悩みが嘘のように! なんてな。 特に左手の薬指にはめる事で幸運が舞い込む確率が更に倍とか? ……って、あれ? 左手? そんでもって、薬指……? えっ……? 「まあまあ、指輪くらいいいじゃん、りっちゃん。 いいなー。その指輪可愛いなー。その指輪、信代ちゃんが自分で買ったの?」 何も気付いていない唯が、羨ましそうに信代の指輪を見つめる。 私はと言えば固唾を呑んで、信代の次の言葉を待つ事しか出来なかった。 まさか……だよな? ラブリングとかそういうの……だよな? それはそれで、結構衝撃的ではあるんだけど。 そして、しばらく後、信代は照れた顔で頭を掻きながら、ある意味私の予想通りの言葉を言った。 「ははっ。校則違反は勘弁してよ。これ旦那から貰ったもんなんだからさ」 「えっ……? 信代……ちゃん……? 旦……那……?」 流石の唯でも事態が呑み込めてきたらしく、静かに深刻に信代に訊ねていた。 唯の質問に答えるために、ゆっくりと信代が口を開く。 その瞬間、もう確定している、と私は思った。 これから信代はもう確定している事を口にするだけだ。 それを私は分かっている。何を言うかも分かっている。分かり切っている。 だから、私は驚かないようにしよう。 これから多分叫ぶ唯を、大声で叫ぶな、と説教する役に徹しよう。 大丈夫。私は冷静だ。今更、信代の言葉なんかに驚かない。 私はクールに定評のあるりっちゃんだ。 しまった。 唯を説教するつもりが私も唯と一緒に一緒に叫んでしまった。 でも、それも仕方が事だった。 会話の流れからある程度予想してはいたけど、実際本人の口から聞くとやっぱり衝撃的だ。 これまでそんな素振りを全然見せなかった信代が結婚なんていきなり過ぎだろ。 「何? 私が結婚した事がそんなに意外?」 怒ってる様子じゃなく、普段見せる豪快な笑顔で冗談交じりに信代が言った。 さっきの私達の反応は失礼だったかもしれないけど、信代はそんな事なんか全然気にしていないみたいだった。 凄い余裕だ。 まさかこれが主婦の余裕ってやつか? 「いや、意外っつーか……。何つーかさ……」 私は頬を掻きながら言葉を探してみたけど、中々いい言葉が見つからなかった。 何て言うべきなんだろう。 友達が結婚した事自体が初体験なんだ。 この様子を見る限り、信代の結婚は嘘とか冗談じゃないみたいだし。 やっぱりこういう時は笑顔で祝福するのが正しい反応なんだろうか。 いや、それだと普通過ぎるから、少し冗談交じりに反応するべきなのか? あー、分からん! そうして私が悩んでいると、私が何を言うより先に唯が信代の両手を握って微笑んだ。 「凄いね、信代ちゃん! おめでとう!」 「ははっ、ありがとう、唯」 そう言って、いつも豪快な信代が照れた表情ではにかむ。 そうか。唯の反応が正解だったのか。 私はつい一人で感心して頷いてしまう。 前から思ってるんだけど、こういういざという時の唯の行動は間違いがない。 物怖じもしなくて、感じるままに行動してるだけなんだけど、 そんな風に単純だからこそ、正解までの最短距離を見つけられてるって感じだ。 私もそんな唯の単純さを見習う事にした。 「うん、そうだな。結婚おめでとう、信代。 先を越しやがってー。こいつめー!」 言いながら、信代に駆け寄って肩を軽く叩いてやる。 本当はチョークスリーパーを仕掛けてやりたかったんだけど、 私と信代の身長差じゃ信代にチョーキングを仕掛けるのは無理があった。 「律もありがとう。 私なんかあんた達みたいに可愛くないから、先に結婚しちゃって申し訳ないね」 「お、言うようになったな、こいつー!」 私が笑いながら何度も肩を叩くと、信代は更に気持ちいいくらいはにかんだ。 その笑顔は本当に眩しくて、信代だって十分可愛いよ、と私は思った。 確かに信代は体格もよくて、女子高生って言うより肝っ玉母さんみたいだけど、 それでもその笑顔や照れた仕種は女の私から見ても本当に魅力的だった。 会った事もない人だけど、信代の旦那さんも信代のそんなところに惹かれたんじゃないかな、と何となく思う。 「ねえねえ」 信代の手を取ったままの唯が、聞きたくて仕方がないといった素振りで信代に訊ねた。 「信代ちゃんの旦那さんって一体誰なの? 私達の知ってる人? 年上? 年下? ねえねえ、教えてよー」 信代より年下だと日本の法律では結婚出来ないんだが……。 突っ込もうかと思ったけど、今それを言うのも何だか無粋な気がした。 私はその唯の言葉をスルーして、信代の返事を待つ事にする。 「三歳年上だよ。幼馴染みの腐れ縁でさ。 元々、旦那が大学を卒業したら結婚するつもりだったんだけど、こんな状況だしね。 今の内にって事で、一ヶ月前に婚姻届けを出したんだ。 受け付けしてないんじゃないかと思ってたけど、意外と役所も開いてて律儀なおじさんが受理してくれたんだよ。 ちゃんと戸籍にまで反映されてるかは分かんないけど、でも、受け取って貰えただけでも気分的に嬉しかったな」 ほんの少し顔を赤くして、信代が語ってくれた。 本当に嬉しそうに。 幼馴染みか……。 一瞬、私の頭の中に澪の顔が浮かんだ。 他に幼馴染みがいないわけじゃないけど、私にとって一番近い幼馴染みはやっぱり澪だった。 傍に居なくちゃいけない。居て当たり前の私の幼馴染み。 勿論、そんな事を本人に伝える事はないだろうけど。 と言うか、伝えたらあいつの中の感情が一周回って「恥ずかしい事を言うな!」と逆に殴られそうな気がする。 あいつに殴られ慣れているせいか、どうしてもそんな気がする。 非常にそんな気がする。 私の思い過ごしならいいんだけど……。 「おー! 幼馴染み! いいなー! 私も幼馴染み欲しいなー」 そうやって声を上げたのは、勿論唯だった。 私と違って、唯の方は自分の幼馴染みを思い浮かべなかったらしい。 おいおい。この事を知ったら、和泣くぞ。 いや、泣く……かな? どうにも和には何かで泣くイメージが無いな。 和の事だから、冷静に何も聞かなかった事にするだけのような気がするし。 それはそれで長い付き合いの幼馴染みの姿ではあるんだろうけど。 「だけど、水臭いぞ、信代ー。 幼馴染みと付き合ってるなんて、一言も言ってなかったじゃんかよー」 私が頬を膨らませて言ってやったけど、それでも信代は穏やかな表情のままで続ける。 「ごめんって。聞かれなかったし、自分から言うのも何か恥ずかしくってさ。 大体、嫌じゃん? 聞いてもないのに自分から彼氏が居るって言い出す奴って」 それは確かに嫌だな……。 信代から見ても嫌そうな顔をしていたんだろう。 苦笑しながら、信代は話題を変えた。 「でも、こんな時期だからって、本当はこんなに急いで結婚するつもりじゃなかったんだ」 「え? そうなのか?」 私が信代の顔を覗き込みながら訊ねると、軽く信代は頷いた。 頷いたその信代はこれまでの照れ臭そうな笑顔じゃなくて、 そうだな……、何て言うんだろう……、 何かを懐かしそうに考えているみたいな……、『郷愁』……だっけ? とにかくそんな静かで優しい表情をしていた。 「卒業したら進路はどうするつもりか、確か唯には話した事あったよね?」 「うん、覚えてるよ。酒屋さんのお手伝いだよね?」 信代が訊ねると、間髪入れずに唯が自信満々で応える。 てっきり「そうだっけ?」と首を捻るもんだと思ってたんだけど、 意外に覚えてる事は覚えてるんだな、と私は唯の記憶力に感心した。 と言うか、普段から私と唯自身の言った事も覚えておいてくれると助かるんだけどさ。 とにかく、その信代の進路については私も知っていた。 信代自身から直接聞いた事はないけど、 信代の家が酒屋だって事は聞いた事があるし、 卒業後はそこを手伝うらしいという話も、又聞き程度で聞いた事はあった。 「先月に『終末宣言』があったじゃん。 それでさ、私はこれからどうしたいのか考えたんだよ。 これからどうなるか分からないし、 テレビで言ってる通りなら一ヶ月半後には死んじゃうわけだし」 死んじゃう。 何気なく言ったんだろうその信代の言葉に、少しだけ私の心臓が高鳴る。 だけど、それを顔に出さないように、黙って信代の言葉の続きを私は待つ。 今はまだ、誰かが死ぬとか自分が死ぬとか、そういう事を考えたくなかったから。 「それで単純だけど、私はやっぱりうちの酒屋を手伝いたいって思ったんだ。 欲を言うと日本一の酒屋になりたかったんだけど、流石にこんな短期間じゃね……。 でもさ、だったらせめて少しでも日本一の酒屋に近付いてやりたくってさ。 それで長いこと、学校に来てなかったんだよ。 ずっと家で酒屋の仕事をやっててさ。大変だけど、とてもやりがいがある仕事なんだ。 こんな時期でも、うちの常連の飲んだくれのおっちゃんとかが毎日来るしね。 どんだけ飲むんだよー、って感じだけどね」 「信代ちゃん、カッコイイ!」 茶化すわけではなく、本気の表情で唯が拍手していた。 釣られて私も拍手してしまう。 唯の言うとおり、そう語った信代の姿は本当にかっこよかったから。 少なくとも、色んな事を考えないようにしてる私より数十倍は。 ……って、そんな卑屈になってる場合でもないか。 私は頭を振って気を取り直して、信代に話の続きを催促する事にした。 卑屈になる事はいつだって出来るからな。そういうのは一人ぼっちの時にするべきだ。 「それで信代? 酒屋さんの手伝いをしてたのは分かったけど、 結婚するつもりはなかったってのはどういう事なんだ? 何か旦那さんに不満でもあったのか?」 そう私が訊ねると、また顔を赤くして信代が笑った。 「いやいや、旦那に不満なんてないよ。 そもそも私を嫁に貰ってくれるだけで感謝ですよ。 小さい頃から、嫁の貰い手があるかお父さんにはよく心配されてたからね」 「じゃあ何で?」 「まだ結婚する前の旦那にさ、 学校を辞めてうちの酒屋を手伝いたいって伝えたんだ。 少しでも酒屋って仕事を経験しておきたいって。 そうしたら、あいつ、言ってくれたんだよ。 『俺もお前と酒屋をやる。お前のやりたい事が俺のやりたい事だ』ってさ。 気障だよね。言ってて自分で恥ずかしいよ」 確かに気障だった。 気障で気恥ずかしいけど、素敵な話だった。 信代はそういう最後の時まで一緒に居られる相手を見つけられたって事なんだ。 それはとても素敵な話だ……、けど、つい私の背中が痒くなってしまっていたのは内緒だ。 いや、分かってはいる。 分かってはいるんだけど、そういう気障な話とかメルヘンな話とかはどうにも痒くなる。 それは私の持って生まれた性格で、どうにも変えようがないんだよなー。 申し訳ないけど、この辺は本当に勘弁して頂きたい。 だけど、羨ましかったのも確かかな。 私にも最後の瞬間まで一緒に居たい誰か、居てくれる誰かは出来るんだろうか。 その時、またも一瞬浮かんだのは澪の顔だった。 我ながら色気無いな、と思いながらも、澪だったらどうだろうと私は考える。 澪なら最後まで居てくれる……とは思うけど……、いや、多分……。 腐れ縁の関係ではあるけど、あいつも私と一緒に居たいとは思ってくれているはず。 それが世界の最後までかどうかは分かんないけど、少なくとも私の方はまだあいつと離れたくなかった。 でも、もし……。 もしもあいつが誰か違う人と一緒に居たいと言い出したら、 私は気持ち良くあいつを送り出してやる事が出来るだろうか……? それはまだ、考えても仕方がない事だけどさ。 と。 「信代ちゃん、いいなー。私も結婚したいなー」 そんな私の思いに完全に気づいてないだろう唯が信代に向けて憧れの眼差しを向けていた。 やっぱりこいつの方はずっと変わらないんだな。 「はいはい。 唯ちゃんは結婚するよりも先に彼氏を作りまちょうねー」 からかう感じで私が言ってやると、 唯はまた頬を膨らませて「りっちゃんだってそうじゃん」と呟いた。 それはそれとして、そんな変わらない唯の姿にとても安心している私が居た。 色んな事が変わっていく。 世界も、人も、終わりに向けて変わっていく。 それは多分、必要な事なんだろうけど……。 でも、変わらない誰かが居てくれるってのは、何だかとても嬉しかった。 「それでさ」 急にまた信代が続ける。 私は苦笑して唯を見ながら、信代の言葉に耳を傾けた。 「そんな感じであいつがうちを手伝ってくれる事になったんだ、それも住み込みでさ。 もうこの際だから、入籍して夫婦で酒屋を盛り上げようって事になってね。 それでずっとうちを手伝ってて忙しくてさ、つい皆に連絡を取り忘れてたんだよ。 律も唯もごめんね」 私は軽く頭を振って、いいよ、とまた信代の肩を叩く。 そういう事情なら怒るに怒れないじゃないか。 そもそも怒ってたわけでもないけどさ。 「でも、今日はどうにか時間が出来たから、学校に来てみる事にしたんだ。 しばらく皆と会えてなかったし、それに……」 「それに……?」 私が先の言葉を催促すると、何処か寂しそうな顔で、でも、何かを決心した顔で、信代は言った。 あくまで明るく、いつも通りの肝っ玉の太い信代の声色で。 「今日はお別れの言葉を伝えに来たんだよ。 友達とか、先生とかにさ。もう皆と会えるのも最後かもしれないからね」 そんな今生の別れでもあるまいし、と私は明るく軽口を叩こうと一瞬考えたけど、やめた。 そうだったな。 本気で今生の別れになるかもしれないんだよな。 もう、そんな時期なんだよな……。 ほんの少しの沈黙。 唯も少し視線を落として、何となく寂しそうに見える。 私も何を言えばいいのか分からなくて、どうしようかと少し迷ったけど……。 それでも私は信代の背中側に周って、背中から飛び付いてチョーキングの体勢を取っていた。 信代もちょっと驚いたみたいだったけど、私を振り落としたりはしなかった。 やっぱりと言うべきなのか、その体勢はチョーキングと言うより、 私が信代におんぶされてるみたいになってて、それを見てた唯が軽く笑った。 「あはは。二人とも何やってんのー?」 「いやいや、私は何もやってないし。律が勝手に飛びついて来ただけだよ」 「うるへー。考えてみりゃ、信代にチョークスリーパー掛けた事無かったからな。 折角だから、存分に味わっとけい!」 「うわ、無茶苦茶だ」 顔は見えないけど信代が苦笑したらしく、 信代の背中越しに見えた唯もそれに釣られてまた笑っていた。 私も多分笑っていた。 その顔は三人とも寂しさを含んではいただろうけど、今出来る最高の顔だったと思う。 そうして一分くらい信代の背中におんぶされて、 私は存分に信代をチョーキングしてから身体を離した。 唯の隣に戻って、信代の表情をうかがってみる。 ずっと私をおんぶしていたのに、信代は疲れた様子を全然見せずに笑っていた。 流石は信代。桜高最強の女(多分)。 「さてと……」 3
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律が眠りにつき始めた数分後…携帯は鳴る。 「りっちゃんね、恥ずかしいけど頑張るゆ」 夢の中で眠りについた律は、夢の中で夢を見たそうな… いちご『りっちゃん…』 律『ん?』 いちご『しゅき…』 律『なんだって…噛んでるぞ…』 いちご『好き…好き…』 律『いちご。まー…落ち着け』 いちご『私のこと嫌い…?』 律『いやっ…そんなんじゃないけどさー…。あたし達女の子同士だよ?』 いちご『嫌いなんだ…』ジワッ 律『ちょっと…泣くなよー…』 いちご『だって…だって…』ジワワッ 律『う…』 いちごの涙に動揺してしまう律。 律『えぇい…もうっ…』 いちご『あっ…』 むぎゅぎゅむぎゅう… そうっと抱き寄せる。 泣き止んでほしくて、とっさに考えた打開策。 思いは通じたのか、いちごはぴたりと泣き止んだ。 いちご『キス…』ボソッ 消え入りそうな声でいちごは言った。 至近距離で目を閉じキスをせがむ。 律『(これは…キ…キキキ…)』 いちごのおねだりに逆らえる気がしない。 この申し出を断ったらまた泣いてしまうだろう。それは御免だ。 律は観念し、いちごの肩を掴むと 律『じゃ…じゃあ…行くぞ…』 いちご『ん…』 お互いの唇が触れ合う。 律にとって始めてのキス。おそらく、この感触は生涯忘れることはないだろう。 いちごの唇はとても柔らかく、しっとりしていて…ほんのりミントの風味。 律『……ぷはっ』 いちご『嬉しい…』 キスを終えると、いちごは目を逸らす。自分からキスをせがんだものの、照れがあるのだろう。 もちろん、律も心臓の鼓動が聞こえそうなほどに緊張していた。 律『落ち着いた…か?』 いちご『うんっ…』ニコ 律『ははは、現金だなー』 いちごの笑顔を見て、律も笑顔になる。 いちごが、いつも笑顔でいられるように、自分がいちごを守るんだと律は固く決意するのだった…。 ~~~ 聡「姉ちゃん、朝だぞー」ユッサユッサタユンタユン 律「うぇっ!?」ガバッ 聡「やっと起きたか、んじゃ先行くな」 律「あぁ…」 ロマンチックな夢は愚弟によって終わりを告げた。 あのまま夢が続いてたら…今頃はあんなことやこんなことを… 律「(聡め…覚えてろ…)」メラメラ 復讐に燃えつつも、通学の準備を始める。 律「あっ…!メール」 一通り準備を終え、律は昨晩のいちごとのメールのやり取りを思い出す。 昨晩の最後のメールを確認し、先に寝てしまったお詫びのメールを送る。 律「今日は早めに出よう」 なぜかって?いちごに会いたいからに決まってる。 いつもは遅刻ギリギリな彼女をこうも掻き立てる 律「いってきまーす!」 律母「律!玄関先にパンツ………」 母親が何か言いかけていたが、ドアにその声は遮られた。 律は駆け足で学校に向かった。 早く出たせいか、いつもの通学路が違う道を歩いてるような不思議な感覚になる。 律「涼し…」 風が律のスカートをめくる。 けどそれが?こちとら伊達に死線をくぐり抜けちゃいねぇぜ。 通学路を歩いていると、見覚えのあるおさげの女の子。 律「あっ、おーい!」 いちご「あ…おはよ…」モグモグ 律「昨日はゴメンなー」 いちご「ううん、あのあと私も寝ちゃったから…」 律「そっかぁ」 怒っていないようで安心した。おそらく塾での勉強で疲れたのだろう、少し眠そうな目をしている。 いちご「ガム食べる?」モグモグ 律「おっ、サンキュー…これは…」 彼女から差し出されたガムはミント味。 不意に昨晩の夢が思い出される。あんなに激しい夜を過ごしたのに…いちごは普段と変わらぬ様子だ。 絶対にキスの前にこのガムを噛んでた。 いちご「田井中さん…ミント苦手?」 律「あっ…いやぁ、それよりいちご、田井中さんは止めるんじゃなかった?」 いちご「あっ…」 律「忘れたとは言わせないわよ?」ウフフ いちご「むむ…」 悪戯に笑ってみる。 少し困った表情で、考え込むいちご。照れがあるのだろう。 いちご「ふぅ」コホン 覚悟を決めたのか、軽く咳ばらいをする苺。 いちご「り…り…」 いちご「りっ…」 律「ぬ…」 いちご「りっちゃ…」 律「りっちゃ?」 いちご「りっちゃ」 律「んはどうした…」プルプル いちご「りっちゃて可愛い気がする…これで呼ぶね」 律「りっちゃ…まぁ、いいけども」 いちご「りっちゃ、学校行こ」 「りっちゃ」か… 悪くないかもしれない。 お茶の名前ぽいけど… 律「そうだなぁ、けど夏なのにインフルエンザておかしいよなぁ」テクテク いちご「ミスしたね」ポテポテ 律「夏なら食中毒とかじゃん?」 いちご「うん、 1が季節設定間違えたんだよ…」 律「だよなー」 何気ないことだけど、いちごが普通に話してくれるようになって、少し嬉しい。 小さな幸せを噛み締める律。 2人で歩きながら談笑し、学校に着いた。 2人でいる時間は短く感じられ、もっと話したいけど、我慢しよう。 律「(放課後に可愛がってやるぜ…ぬふふ)」 いちご「…?何笑ってるの?」 律「いや、どんくらい来てるかな」 いちご「私達だけだったりして…」 律「ははは、そんなわけないだろー」ガラガラ 教室の扉を開けると、そこには… ドシンッ、ドシンッと揺れる教室。信代が壁に向かって突っ張りをしている。 信代「ふんっ…!ふんっ…!1・2・3・4・ちゃんこ!!」 律「(なんという迫力…!)」 いちご「りっちゃ…怖い…」グイグイ 律「心配すんな、大丈夫だって」 恐怖を感じたのか、いちごがスカートの裾を引っ張り、声をかける。 不安にさせまいと手を握ってやる。 信代「トュルトュトュトュトュトュトュールトュトュトュトュトュ!1・2・3・4・ちゃんこ!」ドドドドド 律「(ぬ…この歌…どこかで…)」 幸いにも奴はこちらの存在に気づいていない…。まともに立ち会えば勝ち目はない。 信代「おう、りっちゃんといちごじゃん」 律「しまっ…」 先手を打つつもりが、先を越された。 信代「珍しい組み合わせだな、おいどんビックリ」 律「いやぁー…たまたま会ってさー」 信代「さぁて…ラストは四股ね!ちょっとうるさいけどごめんね」 いちご「……」ホッ 安堵のため息。 どうやらこちらに敵愾心はないらしい。 律「朝からヒヤヒヤしたぜ…」フィー いちご「…他はお休み?」 律「そうだなー」 信代の四股を踏む音が響き渡る中、教室を見渡す。 いつもはHRが始まるまでは、賑やかに皆がお喋りをしているものだが… 律「静か過ぎだろう」 いちご「うん…」 今日も休みならいちごとゲーセンに行けたのに…。 そんなことを思う。 さわ子「皆、おはよう」 律「あっ、さわちゃん」 いちご「おはようございます…」 さわ子「こらこら、教室で四股は禁止っていったでしょう」 信代「あっ…すいませーん」ドスドス さわ子「むぎゅちゃんは?」 律「休みだってさ」 さわ子「(今日のケーキはなしね…)」ガックリ 担任の登場で皆席に着く。とはいっても3人しかいない教室は違和感がある。 席が離れ離れだからだ。 さわ子「むむむ…」 何やら考え込んでいる様子。 さわ子「ふぅ…今日は少ないから皆固まって座りましょう」 律「(やったやったぁ)」 心の中でガッツポーズ。 いちごの隣りに座れる。 律「隣失礼しまーす」 いちご「どうぞ…」 信代「うっす」 律「どうも…」 さわ子「じゃあ…今日は人数少ないから居眠りもできないからね?田井中さん」 律「ぬっ…確かに…」 今日は眠るつもりはないけれどね、ティーチャーー 11
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律唯・唯律 百合長編 律「この苦しみをどうすりゃいい…?」 憂「時をかける長女」 律「放課後唯タイム」 律「ヘアピン外した唯とデート」唯「カチューシャ外したりっちゃんとデ 純「規制とけた!」 ※ふたなり 唯「りっちゃんりっちゃん」 百合長編未完 唯「うんたん♪」 百合短編 唯「寂しくて、眠れない夜」 律「唯が可愛い過ぎて生きてるのがつらい」 唯「わがままな嫉妬」 唯「りっちゃんは寒がりさんだね」 律「唯で遊んでみよう」 唯「お嫁さんごっこ!」 唯・律「大学落ちた…」 唯「りっちゃんペロペロ(^ω^)」 唯「りっちゃんでも口説いてみようかな」 律「唯の家に来たはいいがする事がない」 唯「幸せってなんだと思う?」 ※注意 唯「おでこにチュッ」 澪「律と唯が喧嘩した!?」 律「唯なんて大嫌い」 唯「そろそろ律ちゃんに復讐しよっと」 唯「律っぱいは謎いっぱい」 律「何だよ唯? いや、あたし別におっぱいおっきくないし」 唯「りっちゃん一緒に寝ようよぉ~・・・」 梓「澪先輩とデート」 律「唯可愛すぎワロタ」 唯「じゃーんけんぽん!」律 唯「愛を叫ぶよ、りっちゃん!」 律「うおー!」 律「コイビト・・・?」 唯「すぐそばに」 百合短編未完 唯「りっちゃんちゅっちゅっちゅ」 唯「冬だね、りっちゃん」 律「ああ」 唯「髪おろしたりっちゃんかっこいい!」 レズ長編 唯「だって私、レズだもん」 律「みんな唯のことが好きなんだよ!!」 ※注意 唯「パン作ったんだけど」 澪「梓寝ちゃった…」 ※短編 レズ長編未完 律「ちょ…ばっ…!やめろぉ…唯ぃ…///」ビクンビクッ レズ短編 律「ギネスブックに載りたい」 ※ 律「サッカーしようぜ~。唯、お前ボールな」唯「ふぇ?」 律「唯ー!セックスしようぜー!!」 律「……のあとが!」唯「本音っ」 レズ短編未完 律「お、おい唯・・・そこは・・・だめだって」 ふたなり短編 律「や、やめろって唯!」 唯「りっちゃんのおちんちんちゅぱちゅぱしたいよぉぉぉぉぉ!」 感動短編 唯「ねえねえ、りっちゃん」律「んー?」 律「同じ立場だから」 コメディ短編 律「友達の証にキスwwwwクソワロタwwwwwww」 唯「は、さ、み! チョキチョキチョキ」 律「1万円札しかない」唯「へ?」 唯「まんざい!!」 その他長編 律「唯~暇ならデートしようぜ!」 唯「デート?」 ※ その他短編 唯「ですめたる!」 律「おいおい」 唯「グミってさ」 唯「りっちゃんはね」 唯「酔っ払っちゃった///」ウトウト 澪「憂ちゃんみたいな妹ほしい」 律「唯のテンションが下がらない」 律「あ、今日バレンタインだったか・・・」 律「キスマーク」 クロス・元ネタ長編 唯「サイカノ」 ※ 小ネタ 唯「幸せ!?」 唯「りっちゃん、ありがとう」 唯「カニコロ」 唯「りっちゃん、今日から私がドラムやるね!」 企画SS 唯「牛乳!」 ※13 唯「まるでパンドラボックスだね」 ※6、9・10 唯「バレンタインのお返しだよ!」 ※15 律澪・澪律 律紬・紬律 百合長編 唯「あずにゃん、ちゅーしよっか」 紬・澪「気のせいなんかじゃ、ない」 梓「もしもし、私あずにゃん今唯先輩の後ろに居るの」 唯・憂「しかっけい!」 唯「ぎゃるげ!」 律「どこへ行こうか」 紬「お手紙とお弁当」 律「べいびーべいびー」 律「ムギをむぎゅって抱きしめたい」 百合短編 紬「りっちゃんのお家にお泊まりに行っていい?」 紬「みんなとキョリを感じる・・」 紬「彼氏のフリをしてほしいの」 紬「Forever we can make it!」 律「あ、あのさムギ…今度の日曜遊び行かないか///」 紬「最近律澪に萌えられない」 紬「これからの時代は律紬よ!」 紬「キスしてほしいの……」唯澪律梓「え」 律「ムギとのクリスマスイブ」 澪×律、唯×律、紬×律、中野×律、いちご×律、憂×律 紬「りっちゃんむぎゅ~♪」律「ば、バカ////」 律「ダンボールからムギ」 百合短編未完 唯「りっちゃんとムギちゃんって最近仲良いよね~」 レズ短編 律紬「ふれんど」 ※注意 ふたなり短編 ムギ「律ちゃんが男の子だったらきっと……」 コメディ短編 紬「もっとぶって!!!」 その他長編 紬「はみんぐばーど」 その他短編 唯「詰め合わせだよ」 律「ムギがおうちにやってきた」 律「1日だけの彼女」 ※エピソード注意 律「ムギは知らないのか?」 律「そうだ。琴吹さんにメールでもしてみるか」 コテさん 紬「私のこと叩いて欲しいの…」 小ネタ 律「ちょっとムギ……そこはダメだって…」 企画SS 澪「合宿をします!」 ※6 唯「バレンタインのお返しだよ!」 ※12 「いつもの時間にお逢いしましょう。待っています。xxx」 シリーズ 紬「素敵な誕生日プレゼント」 シリーズ 律梓・梓律 百合長編 律「おい梓」 律「あずにゃんペロペロ」 梓『律先輩みたいなお姉ちゃんもアリかな…と』 唯「ハニカミプラン?」 律『こいびとごっこ』 梓「りーつせーんぱい♪」 律「中野ー!」 律「踏みつけたからこそ摘むことが出来た四葉」 律「にゃんこいやー?」梓「ドッグイヤー!」 梓「大丈夫、約束したから」 梓「大好きな人の大事な日」 梓「約束の話」 百合長編未完 梓「敬語:タメ口=?」 百合短編 律「なあ梓」 澪「なんで私の物にならないんだ!」 梓「律先輩、行っちゃうんですね…」 唯「憂に愛の告白をしたい」 律「え? 私に甘えたいの?」梓「はい」 梓「りーつ!」 梓「先輩、海に行きましょう!」 梓「律先輩に惚れ薬を使って私のことを好きにさせてやります」 律「パンの耳うめぇ」 律「大きな窓があるお部屋♪」 梓「律先輩とふたりぼっち」 梓「りっちゃん」 梓「りっちゃん、大好き」 律「おっぱい!」 律「律さんは?」 律「ぽーかー!」 梓「シークレットラブ」 澪「唯犬!」 律「梓、うまいか?」 律「どんちゅーらいくみー?」 律梓「梅雨の日!」 律「雲と後輩は高い所が好き」 梓「実らない花」 梓「ふふっ、律は可愛いな」 律「きっと思い出の月」 唯「ムギちゃんの脇の下舐めたい」 梓「あずりつ三連発!」律「バッカ、りつあずだよ」 百合短編未完 梓「律せんぱあぃ…」 レズ長編 律「うわ、ベタな話」 レズ短編未完 梓「うぅ・・・やめて・・・やめてっ!」グググギギギ ふたなり短編 唯「ぽこちん!」 梓「おちんちん生えちゃった……」 コメディ短編 律「眠れない……」梓「うるさいんで早く寝てください」 梓「おいド田舎」 律「何がむかつくって巨乳コンプレックスじゃないところだよな」 その他長編 唯「りっちゃんがいっちゃん好っきゃねん!」 ※ 唯「放課後ティータイム!」 ※小ネタ その他短編 律「四月一日」梓 律「梓は一人ぼっちじゃない」 律「手、繋ごっか」 梓「律先輩はおねえちゃん」 律「君のために歌おう」 律「梓?あぁ、あいつは苦手だな」 梓「私たちの約束」 コテさん 唯「事後!」 唯「スパ4やろうよ!」 小ネタ 梓「贈り物」 企画SS 唯「牛乳!」 ※2 唯「バレンタインのお返しだよ!」 ※7 「いつもの時間にお逢いしましょう。待っています。xxx」 シリーズ 梓「子ぶた?」律「小ねた!」 シリーズ 投稿SS 律「けんさく!」 律「おみまい!」 律「小さな誓い」 律憂・憂律 百合短編 律「憂ちゃんくれ」唯「いいよ」 律「ひまだー」 澪×律、唯×律、紬×律、中野×律、いちご×律、憂×律 その他短編未完 唯「抱き枕専用妹」 律和・和律 百合長編 澪「ずっとずっと好きだった」 百合短編 唯「Nod, or it s you」 和「律が休み?」 律「女の子に両手広げて『おいで~』ってされるとキュンキュンする」 レズ長編 和「くぱぁってなんなのかしら……」 レズ短編 律「和…駄目だよぅ…」 コメディ短編 律「眼鏡と」和「カチューシャ」 その他短編 律「いちばん後ろで」 企画SS 「いつもの時間にお逢いしましょう。待っています。xxx」 律純・純律 百合短編 唯「和ちゃんのがかっこいいよ!」澪「いーや!律のがかっこいい!」 唯「澪ちゃんと身体が入れ替わった」 純「遊園地!」 コメディ短編 律「あれ、佐々木さんじゃん」 律さわ・さわ律 百合短編 梓「澪先輩…」 コテさん 律「さわちゃんは意外と子供っぽいのだ」 律いちご・いちご律 百合長編 澪「律が構ってくれなくて辛い」 百合短編 律「なあいいだろー?」いちご「え、ヤダ」 いちご「律っちゃん」 その他長編 唯澪律紬梓「夢オチ!」 ※百合系 律信代・信代律 その他短編 純「不人気コンビには3期参加をご遠慮願おうか」 律菫・菫律 その他短編 律「お手」菫「わんわん!」 律菖・菖律 小ネタ 菖「あれ、りっちゃん? 何してんのこんな夜遅くに?」 その他 百合長編 澪「梓ってどんなパンツ履いてるの?」 律「えーと、呼んだか?」 律「陽はまた昇る」 百合短編 律「おい!そこでレズみたぞ!!」 律「りっちゃんは真のイケメン」 律「スキ」 憂「ヤキ」 百合短編未完 律「一夫多妻」 レズ長編 唯・律「………はぁ…」 律紬「ふれんど」 コメディ長編 律「交換しましょ」唯「そーしましょー」 コメディ短編 唯「りっちゃんって競争率低いよね」 律「短」 その他長編 律「一番大切なもの」 その他短編 律「澪か唯かムギか」 クロス・元ネタ短編 律「本当は私は男なんだ」 戻る
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律梓のAA達です AA職人さんはこちらに直接投下してもらっても構いません。 AAは #aa(){{{ }}} で括って下さい。 また、@wikiの仕様変更によりページから直接2ちゃんねる等にコピペするとAAが崩れてしまうので注意してください。 尚、編集ページからは正常にコピペできます。 律梓(本編、二次創作など) 律梓1 律梓2 律梓3 律梓4 律梓5 律梓6 ちっこいの ちびキャラ律梓1
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○ 私達は講堂の裏口から舞台袖に入り、降りた緞帳の裏で楽器の用意をしていた。 皆、緞帳から客席は覗かず、静かに作業を行う。 何人来てくれているのかを確認するのは失礼な気がしたからだ。 何人来てくれていても構わない。 何人も来てくれていなくても構わない。 特に今日は世界の終わりの前の日だ。 来てくれる予定だった人でも、急な用が入って来れなくなる事も少なくないと思う。 勿論、それは残念な事だけど、 そちらの用事の方が大事なら、遠慮なく優先してくれればいいと思う。 このライブは私の……、私達の最後の我儘から開催したライブだからな。 私達が好きで勝手に開催してるライブでしかない。 参加する義務なんて誰にも無い。 皆、思い思いに過ごすのが一番大切な事だし、私もそうするし、皆もそうしてほしい。 とは言っても、アーティストのエゴって言うのかな。 何人くらい来てくれているのか気になるのも、確かなんだよな。 いやはや、こんな時なのにお恥ずかしい。 まあ、ちょっと考えちゃうくらいは許してほしいところだ。 観客の数は、多分、三十人くらいかなと思う。 皆の家族に和と和の家族、さわちゃん、純ちゃん、 いちご、アキヨ、高橋さんにオカルト研の二人……。 それと時間に余裕があれば、信代くらいかな。 月曜日に会って以来、信代からの連絡はないし、私も信代に連絡をしていない。 忙しいだろうと思ってたし、少しでも信代の夢に向かって進んでほしかったってのもある。 あれから信代は日本一の酒屋に少しでも近付けたんだろうか。 信代の満足いく形で前に進めているんなら、私も嬉しい。 他の酒屋を深く知ってるわけじゃないけど、 少なくとも私の中では信代は日本一の酒屋だと思う。 いや、勿論、信代の店のお酒を飲んだ事はないけど、 前に疲れている時に信代が差し入れしてくれたジュースはものすごく美味しかった。 ジュース自体は市販されてる物だ。 でも、それを必要としてる人に、必要としてる時間に提供できるって事がすごいんだ。 それができる信代は、今も日本一の酒屋に向けて進めてるはずだろう。 これは私のちょっとした我儘と言うか贅沢だけど、 信代の彼氏……、旦那も連れて来てくれると楽しいな。 皆、信代の旦那には興味津々だし、誰よりもさわちゃんが信代の旦那を見たがってた。 勿論、私だって信代の旦那を一度見てみたい。 筋肉質で逞しい感じの旦那なんだろうなって私は想像してるけど、 ひょっとしたら全然違うタイプかもしれないし、連れて来てくれていると本当に楽しい。 楽しいってのも、何か失礼な話かもしれないけど。 でも、三十人か……って、そう考えると私は嬉しくなってくる。 身内ばかりだけど、こんな時期に三十人も集まってくれるなんて、すごい事じゃないだろうか。 何より、バンドのメンバーが一人も欠けなかったって事が嬉しい。 世界の終わりの前日の今日、 テレビやラジオで聞く限りでは、様々なバンドがラストライブを開催するらしい。 武道館でもあのバンドの盛大なライブが開催されるんだとか。 最後に何かを形にしたいってのは、誰もが考える事なんだろうな。 でも、フルメンバーで最後のライブを開催するバンドは多くなかった。 まだ二人組ならともかく、三人以上……、 特に五人以上のバンドがフルメンバーで、最後のライブを行えるのは珍しいみたいだ。 バンドメンバーとは言え、最「楽しそうだな、律。 どうしたんだ?」 よっぽど嬉しそうな顔をしてたんだろう。 ベースとマイクの準備が終わった澪が、小さく私に声を掛けた。 私は頭の上にスティックを掲げながら、声は静かに応じる。 「何人くらいお客さんが入ってくれてるのかって考えてたんだよ。 多分、三十人くらいだと思うけど、そんなに来てくれるなんて嬉しいよな」 「う……、三十人か……」 「百人以上の観客の前で歌った事のある澪さんが何を緊張してんだ。 そもそもファンクラブのメンバーだけで三十人近くはいただろ、確か」 「実数の問題じゃないんだよ……。 人がいっぱい居るって事に緊張するんだ……。 特に今回はこれまでの私達のイメージとは違う新曲もあるしさ……。 どうしよう……。引かれたらどうしよう……」 「別に引きゃしないって。観客の皆も身内ばかりだと思うしさ。 でも、これまでの私達のイメージとは違うってのは確かだよな。 曲調も歌詞もこれまでの澪とは違う感じだよ。 どうしたんだ? 音楽性の違いからの心境の変化ってやつか?」 「あっ……、それは……、えっと……」 澪が一瞬、視線を俯かせる。 その様子は照れてると言うより、何かを不安に思ってるって感じだった。 「どうした、澪? 私、変な事言っちゃったか?」 「いや……、そうじゃなくてさ……。 あの……さ……。 今回の新曲、律は嫌いじゃないのかなって……。 何だか新曲を演奏し終わる度に……、律が溜息を吐いてた気がするんだ。 だから……」 成程、澪は私の様子を不安に思ってたのか。 澪の言うとおり、私は新曲を演奏する度に大きな溜息を吐いてた。 でも、その溜息の理由は澪の考えてるものとは全然違ってる。 私は軽く微笑み、立ち上がって澪の近くにまで歩いてから澪の肩を叩く。 「馬鹿だな、澪は。 私、この新曲、好きだぜ? 溜息を吐いてたのは単に新曲が激しい曲だから結構疲れるからで、深呼吸みたいなもんだ。 それと……、毎回、いい演奏ができるからさ……、 嬉しくて感嘆の溜息……って言うのか? そういう感じで息が漏れてただけだよ」 「そうなんだ……。よかった……。 実はさ、律……。この曲は律の事を考えてムギと作ったんだ」 「えっ? 私……の事……?」 「あ、いやいや、律のために捧げる歌とか、そういう意味じゃなくて……」 「そりゃそうだ。 そんな事されたら、恥ずかしくて叫び声を上げるわ」 『冬の日』が自分に宛てられたラブレターかと勘違いした時も、 私らしくなく、毎日ドキドキしちゃって、気が気でなかったしな。 いや、これは誰にも内緒だけど。 澪が少しだけ頬を赤く染めて、恥ずかしそうに続ける。後にやっておきたい事はそれぞれ違うんだからそれは仕方ない。 その点、私達は誰一人欠けずに最後のライブに臨めてる。 そもそも開催できるなんて思ってなかったライブだけど、こんなに嬉しい事はない。 唯の思い付きに感謝だな。 まあ、武道館でライブを開催できるようなバンドと比較する事じゃないけどさ。 「律はさ……、本当は激しいハードロックをやりたかったんだよな……? 好きなドラマーもそんな感じの人が多いしさ……。 でも、今だから言うけど、放課後ティータイムじゃ、 なし崩し的に私の歌詞に合った甘いポップ系が多くなっちゃって、それが気になってんだよ。 律は私に付き合って好みとは違う曲を演奏してくれてるんじゃないかって……、 そう思って、今回は激しい曲にしてみたんだ。 今回の新曲はそういう意味で律の事を考えて作った曲なんだよ」 「確かに私は激しい曲の方が好みだし、 放課後ティータイムの曲は好みとは言えない曲が多いな。 今回の新曲の方が私の性には合ってる。 でも……、放課後ティータイムの曲は全部好きだよ。 好みじゃないけど好きなんだ。好きになっちゃう魅力があるんだ。 唯の歌声、ムギの作曲、梓のギター、勿論、澪の作詞に……」 照れ臭い言葉だったけど、それは全部私の本音だ。 じゃなきゃ、こんなに長い間、皆とバンドなんて組めてない。 外バンなんて考えられない。 好みじゃなくても、放課後ティータイムは私の居場所なんだから。 私の想いが伝わったんだろうと思う。澪も私と同じ様に照れ臭そうに頷いた。 「ありがとう、律。 律が私の曲を好きでいてくれたなんて、 面と向かって聞いた事なかったから本当に嬉しいよ」 「言っとくけど、好みなわけじゃないからな。 好みじゃないけど好きなだけだからな」 「分かってるよ、律。好きでいてくれるだけで嬉しい。 じゃあさ、次の曲は『きりんりんりん』を新曲に加え……」 「その曲は却下」 呆れた顔で私が却下すると、 流石の澪もその曲は採用されるとは思ってなかったみたいで、悪戯っぽく笑った。 どうやら冗談だったらしい。 冗談を言えるくらいなら、かなり緊張も解れたって事なんだろう。 私は苦笑して澪の肩を軽く叩くと、ドラムまで戻って体勢を整えた。 見回してみると、既に唯達の準備も終わってるみたいだった。 舞台袖で私達を待ってくれていた和に視線を向ける。 私と澪のやりとりをずっと見てたらしく、ちょっと苦笑した表情の和が頷く。 隣に居た眼鏡の子(確か生徒会の会計)に指示を出すと、マイクを自分の口元に運んだ。 私は和から視線を正面の緞帳に戻し、深呼吸をして皆に視線を向ける。 唯が楽しそうに微笑んで私を見ている。 ムギも珍しく真剣な表情で私に視線を向ける。 澪は緊張を忘れようと少し強張った顔で、 梓は私を見る他の三人の表情と私の顔を交互に見つめている。 「やるぞ!」 緞帳の先までは聞こえないくらいの声量で皆に宣言する。 そのまま私がスティックを掲げると、皆も効き手を頭上に掲げた。 会計の子が操作してくれたんだろう。それに釣られるみたいに緞帳が上がっていく。 少しずつ上がっていく緞帳に合わせるくらいの速さで、和の声が講堂中に響く。 「さて、皆さんお待ちかね。 絶対、歴史に残すライブイベント、放課後ティータイムのライブの開催です! 皆さん、高校生活最後の彼女達のライブを、思う存分お楽しみ下さい!」 またハードル上げてくれるな、和……。 と言うか、和も結構『絶対、歴史に残すライブ』ってフレーズが好きだったんだな……。 少し微笑ましい気持ちになりながら、 私は緞帳が上がり切るのを待ってから客席に視線を向けた。 信代が旦那を連れて来てくれてるといいなって、そんな軽い事を考えながら。 だけど……。 「えっ……?」 私だけじゃない。 放課後ティータイムのメンバーの全員が戸惑いの声を上げていた。 圧倒された。 圧倒されるしかなかった。 私は観客の数は三十人くらいだろうと思っていた。 贔屓目に考えて、多めに見積もって三十人だ。 唯は五十人くらい来てくれるはずと言っていたが、 夏フェスの参加人数を三億人とか言ってた奴だから、誰も当てにしてなかった。 でも……、でも、これは……、そんな……。 客席から歓声が上がる。 想像以上の歓声……、予想すらしていなかった大量の……。 私は息を呑んだ。 少し見回しただけで、講堂の中には二百人を下らない数の観客が入っているのが分かる。 私達の家族、アキヨ、いちご、オカルト研の二人、信代、信代の旦那らしい背の高いカッコいい人、 さわちゃん以外にも先生が何人か、マキちゃんにラブクライシスのメンバー……、 清水さんに春子達といった私のクラスメイト、澪ファンクラブのメンバーの半数近く、曽我部さん、 多分、私達に制服を貸してくれたムギの中学時代の友達……。 それだけじゃない。 見掛けた事はあるけど名前も知らないうちの学校の生徒に、 誰かの友達らしい全然知らない子達も大勢客席に座っていた。 世界の終わりの間近にこんな人数が……、私達のライブに……。 こんな時なのに……。 瞬間、私は涙を流していた。 私だけじゃない。澪もムギも唯でさえも、その場に崩れ落ちるみたいに大粒の涙を流してた。 何の前触れも無かった。 心の動きを感じるより先に涙が流れてた。 遅れて、胸の痛みを感じ始める。嘘みたいだけど、感情より先に涙腺が反応していた。 声を出そうとしても嗚咽となって声にならない。 悲しいわけじゃない。絶望してるわけでもない。 でも、ただ涙が止まらない。 止まらない涙を流しながら、思う。 集まってくれた観客の皆の気持ちを考える。 私達のライブを見たいのは間違いないだろうけど、 多分、皆、私達と一緒に終わる世界に向けて叫びたいんだろうと思う。 言ってやりたいんだって思う。 私達は生きてるんだって。 明日消えて無くなる命でも、今を烈しく生きてるんだって。 強く生きてやるんだって。 皆は私達にそれを代表させてくれてるんだ。 生きるって事の意味を終わる世界で叫ぶ代表を。 だから、私は何かを言わなきゃいけない。 軽音部の部長として、このライブの座長として、私から皆に宣言しなきゃいけない。 ライブの始まりを私の口から宣言しなきゃならない。 最高で最後のライブを開催するために。 でも。 口を開いても、言葉が出ない。 呼吸をする事すら精一杯だ。 堰き止められてたダムが決壊したみたいに、私の涙が流れ続ける。 涙が私の言葉を止める。 瞼を開いてるのも辛いくらいの涙が私の邪魔をする。 涙が止められないのは私だけじゃなかった。 唯が膝から崩れ落ち、ギー太を胸に抱いて大声で泣いている。 普段から涙脆い奴ではあるけど、今回の唯の涙は尋常じゃなかった。 世界が終わるって知ってからも変わらず楽しそうに振る舞ってた唯だけど、 やっぱり心の奥底では辛かったんだろうし、悲しかったんだろう。 同時に自分に寄せられる皆の期待に戸惑ってしまっているんだろうと思う。 軽い気持ちで、何となく開催する事になった最後のライブ。 内輪で開催するだけなら単なるお遊びみたいなもんだった。 だけど、こんなにも多くの人が世界の終わりの前日に来てくれるなんて、 それだけの価値が自分達にあるのかって今更ながらに恐がっちゃってるんだ。 そんな唯の気持ちが分かる。 勿論、私もそうだからだ。 ムギが腰から崩れそうになりながら、キーボードに手を付いて大粒の涙を流してる。 キーボードで倒れそうな自分の身体をどうにか支えてる。 泣く事をやめられたムギでも、この事態には泣かざるを得ないみたいだった。 皆が集まってくれた事への感謝で胸が一杯なんだろう。 胸が一杯だから、多分、欲が出ちゃったんだ。 この素敵な時間をずっと続けてたいって。 明日も明後日もずっと続けてたいって。 明後日はもう無い事も分かってるのに……、 なのに、欲が出ちゃって、そんな浅ましい自分の欲が愛おしくなっちゃって……。 終わらせたくない。 終わりたくないって思っちゃって……。 だから、ムギの涙も止まらないんだ。 澪が声も上げずに舞台に突っ伏して震えている。 澪が考えてるのはライブの事だけじゃないだろう。 ライブは成功させたいし、どうにか歌いたいと思ってくれてるはずだ。 でも、多分、そこに私っていう重荷が圧し掛かっちゃってる。 本当は私の恋人になりたかったはずだ。 友達以上恋人未満じゃなく、今すぐにでも深い関係の恋人になりたかったはずだ。 私もそうしたかったけど、そうするわけにはいかなかった。 私の想いも固まっていないのに、恋人になるなんてそんな失礼な事は出来なかった。 でも、澪の姿を見てると、その考えが揺らぎそうになる。 私は間違っていたのか? 澪の恋人になって、抱き合って、世界の最後まで一緒に居るべきだったのか? 世界の恋人達は本当は皆そうしてるものだったんじゃないか? 自分の気持ちがはっきりしてなくても、 お互いを慰め合うために傍に居るものだったんじゃないか? それが恋人って関係の真実だったんじゃ……? 考え出すと不安が溢れだして止まらない。 もう取り戻す事のできない残り少ない時間を考えてしまって、焦りが止まらない。 泣いているのは舞台上の私達だけに留まらなかった。 客席の所々から泣き声が上がり始める。 皆、とめどない涙を流してる。 悲しみや不安や怒りや苦しみや……、 世界の終わりに対する色んな感情を宿した涙を流し続ける。 涙脆いと噂の春子が大声で泣いてる。 父さんと母さん、聡が肩を寄せ合って震えてる。 純ちゃんと憂ちゃんが眼に涙を浮かべ、手を握り合ってる。 アキヨが本に顔を寄せて震え、高橋さんがその肩を包み込むみたいにして支える。 ラブクライシスの皆の表情も辛そうで、下級生の子達からも大きな泣き声が上がる。 そして、いちごまで……。 いちごまでいつもの無表情ではあるけど、私の方を見ながら一筋の涙を流してた。 毅然とした表情だったけど、その涙を止める事はできなかったみたいだった。 伝染させてしまったと思った。 私達が……、いや、私が泣いてしまったからだ。 誰も泣きたくて私達のライブに来てくれたわけじゃないのに、 悲しむために私達のライブに来たわけじゃないのに、私が涙を流せる空気を作ってしまった。 泣いて、皆で慰め合うみたいな空気を作ってしまった。 未来に絶望して、過去に縋り付いてもいいんだって、そんな空気にしてしまった。 皆で肩を寄せ合って悲しみを共有しようっていうライブにしてしまったんだ。 最初に私が泣いてしまったせいで……。 私が望んでたライブはこういうライブだったのか? 私は悲しみながら終わる世界、終わるライブで満足なのか? いいや、違う! 私がやりたかったのは、こんなライブじゃない! これから私達がやるライブは、思い出に浸るためのライブじゃない。 皆で最後まで慰め合うって約束をするためのライブじゃない。 私がやりたいのは、私がやるべきなのは、今を生きてる自分達のためのライブだ! 私達は此処に居るって事を叫んでやるためのライブなんだ! 「……な、……いで。 これから……、ライ……、ライブを……」 立てられたマイクにどうにか声を届けようとする。 涙を流す皆にどうにか言葉を届けようとする。 でも、そんな私自身の声が出ない。言葉が出ない。 涙に邪魔されて、私のやりたいライブを開催する事ができない。 悔しかった。 部長を名乗っておきながら、皆を支えようとしておきながらこの様だ。 こんなんじゃ、ライブに来てくれた皆の時間を無駄にしてしまうだけだ。 観客の皆に申し訳ない。 軽音部の皆にも向ける顔が無い。 自分で自分自身が赦せなくなる。 唇を噛み締めて、拳を握り締める。 何もできていない自分を殴り付けてやりたくなる。 私はどうにか立ち上がり、マイクを握ろうとする。 もう一度、届けられるかどうか分からない掠れた声を出そうとした瞬間……、 「皆さん、こんばんは。 放課後ティータイムです」 48